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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)419号 判決 1965年12月21日

理由

一、(省略)

二、予備的請求について。

前項認定の事実関係の下では、被控訴人は、訴外岡嘉一郎の手形債務を保証する目的で、右訴外人の振出した約束手形に裏書をしたこと、すなわちかくれた手形保証をしたことを認めることが出来る。しかし所謂隠れた手形保証と言うのは実質的には保証の趣旨であつても(一)手形上は手形保証として表示されているわけではないから、裏書が振出人の債務を保証する目的でなされた場合にも手形保証人としての責任を負担するものとは言えず、所持人に対してはもつぱら裏書人としての責任を負うものと言うべく、(二)また手形上の債務ないしは手形外の原因債務について民法上の保証をしたものということができない。(ただ、後者の場合裏書人が保証の目的で裏書をなすに際し、その手形が金融のために使用されることを知つていたような場合は裏書人はその裏書人としての担保責任のほか、特別の事情のない限りその金融すなわち、手形外の消費貸借契約についても民法上の保証をなす意思を有したものと推定されることがあるにすぎない。)

してみれば、被控訴人がたとえ前認定のとおりかくれた保証をしたとしても被控訴人が所持人に対して負担する義務は裏書人としての義務に外ならないから、被控訴人が本件手形について裏書人としての責任すなわち遡及義務があるかどうかについて考えてみる。《証拠》を総合すれば、前示認定の原判決事実摘示請求原因記載の各手形は被控訴人の裏書後所持人たる控訴人と振出人たる右訴外人との間の合意に基き満期延長のため裏書人たる被控訴人の同意なしに満期の記載をいずれも昭和三六年六月三〇日に変更し、更にその後またそれをそれぞれ同年八月三一日に変更したものであることを認めることが出来る。そしてこのような満期の変更はこれに同意していない被控訴人にとつては満期の変造に準じて手形法第六九条によつて処理さるべく、従つて当初の満期に遡及条件をみたしたことの認められない(この点の主張立証はない)本件において控訴人は、所持人として裏書人たる被控訴人に対し遡及権を喪失したものといわねばならない。けだし、支払のための呈示は償還請求権保全の条件であるところ呈示期間を含めて右当初の満期に控訴人がこれを呈示したことは認められないからである。もつとも右甲第一、二号証によれば、控訴人は右変更後の最後の満期の翌々日に呈示をしていることが認められるが、それだからといつて、変更前の満期に遡及条件をみたしたことにならないこと前示説明により明かである。

三、結論

よつて主位的請求を棄却した原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条により、本件控訴はこれを棄却する。

なお予備的請求は理由がないからこれを棄却。

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